Production Notes

秘境「鵺ケ淵」を舞台に繰り広げられる本作は、群馬県万座温泉で撮影された。

実はこの作品、もともとは「鵺 啼くカルデラ」という母子の断絶と再生を描いた作品で、2011年に一旦撮影・編集を終えたのだが、納得のいく出来では無かったため、2014年に鵺を主題に置き換え新たに撮影を敢行、モンスター映画として生まれ変わったのである。

撮影は、万座の老舗旅館である「万座温泉 日進館」に協力頂き、食事・宿泊から、本作の魅力のひとつである秘境感溢れるロケ地の交渉に至るまで、全面的なサポートを受けて行われた。

撮影で最も大変であったのは本作の見せ場である、鵺vs京極編集長の対決シーンである。

まず、鵺を表現するにあたり、CG全盛の時代であるからこそCGを一切使用せず、着ぐるみで魅せるというアプローチを取る事にし、日本映画特殊造形界のトップランナーである梅沢壮一氏がこの作成にあたった。

そしてここでひとつの賭けともいえる試みが行われた。通常、このような着ぐるみには専門のアクターが入るのだが、本作では、鵺に変身する謎の男・澤津久森を演じる柴田光太郎本人が着ぐるみを着用し鵺を演じる事にしたのである。

柴田氏は体格が大きく鵺という怪物を演じるのに最適であった事、また、着ぐるみといえど、役者の顔に鵺の顔を貼付けて行く為、柴田氏本人が演じた方が表情がリアルに表現できる事、そしてなにより鵺に変身せざるをえなかった澤津久森という男の心情を一番理解している事、これらの理由から異例ともいえる試みが実践されたのである。

しかし、鵺の着ぐるみは大変重く、視界や呼吸にも負担がかかり、また食事も制限される為、撮影は一日で終える必用があり、柴田氏は慣れない着ぐるみをまとって膨大なカット数をこなす事になった。

結果、柴田氏本人が鵺をまさに怪演とよべる演技で表現した事により、澤津久森という人物に流れる「鵺の血」の悲哀が見事に表現され、おそらく世界初である鵺の映像化は成されたのである。