劇場公開にあたって

 映画「コンクリート」が5月29日より銀座シネパトスで劇場公開されることが決定し、4月17日にスポーツ新聞紙上でその情報がとりあげられると、まずインターネットで本作に対する意見が飛び交った。
 それらのほとんどが、あの事件を映画化するなんて不謹慎だ、けしからんといった否定的なものであり、彼らの攻撃の矛先は公開劇場へと向かうことになる。
 そして感情的な抗議は時として悪質ないやがらせや脅しに変わり、正義という名のもとにお互いを煽ってますます肥大化し、とうとう4月26日、公開を断念せざるをえない状況へと追い込んだ。
 彼らの抗議はそれでも沈静化することなく、今度は大手のレンタルチェーン店へと向かい、商品の入荷を取りやめるよう働きかけるに至った。
 言葉は暴力となり、抗議は抑圧となって猛威を振るった。

 私たちは唖然とした。まだ、誰も観ていない映画である。
 実際の事件を扱った映画は山ほどあるし、まだ誰も観ていない映画がここまで否定的に扱われたことに驚かざるをえなかった。
 だが我々は、見えない相手に対してなす術もなかった。

 以上がここに至るまでの経緯ではありますが、我々は劇場公開を諦めたわけではありませんでした。
 この度7月3日(土)より7月9日(金)まで、アップリンク・ファクトリーさんで上映して頂くことになりました。その英断にスタッフ一同胸をなでおろし、感謝の気持ちで一杯です。
 この作品は本当に多くの方の苦労と協力があって完成した作品です。みなさんにも是非ご覧になって頂きたいと思います。


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 この事件を映画として扱うことを軽く考えていた訳では決してありません。むしろ映画化することはいろいろな角度から考えて不可能だとさえ思っていました。それはご存知の通り事件があまりにも凄惨だったからです。
 しかし、「十七歳、悪の履歴書」という一冊の本に出会ってから考えが変わりました。
 加害者はどこにでもいるような若者たちです。そんな彼らが、その場の状況に流されていくうちに人間の仕業とは思えない事態を引き起こした。
 つまりこれは特別な人たちによる特別な事件ではない。あなたがもしそこにいたら、どのような行動をとることができるのでしょうか。これは、そこにいた人たちの心の弱さから起こった事件だと、そのとき気づいたのです。
 同時に、彼らの内面を映画という表現を通して描くことができるのではないかと考えたのです。

 いろいろな意見があると思います。それぞれの意見に正当性があるようにも思います。
 しかし、この世にこういったものが存在してはならないと誰が言い切れるのでしょうか。
 ご覧になりたくない方がいれば、もちろん観る必要はありません。ただ、不快だからという理由で、それを抹殺する権利も誰も持たないのではないでしょうか。


平成16年 6月 1日
                    企画・製作 小田泰之
        エグゼクティブプロデューサー 倉谷宣緒